モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》全4幕
![]() |
心理描写の巧みさが光る名盤 |
有名なベーム=ウィーンフィル盤をはじめとして、『フィガロ』のすぐれたDVDはかなりの数手に入れることができますが、これもまた独特の味わいをもつ名盤といってよいでしょう。特に三人の主要な女声陣(スザンナ・伯爵夫人・ケルビーノ)が、容貌的にもまた声の質から言っても実に適材適所といえる配役で、それぞれの役に与えられたモーツァルトの美しい音楽を存分に楽しませてくれます。また、演出はリアルさよりも登場人物たちの心理描写に重点を置いたものということができ、簡素でやや抽象化された舞台装置も、心理状態を浮き彫りにするための小道具として見れば、それほどちゃちで物足りないものとは思えなくなってきます。個人的に最も印象に残ったのは、第四幕のスザンナのアリア「恋人よ早くここへ」の場面での、伯爵夫人のせつなく艶のある演技でしょうか。『フィガロ』の全曲盤映像をはじめて楽しもうという人には、やはりベーム盤などのほうをお薦めしますが、ある程度このオペラやモーツァルトの音楽に慣れている人には、ぜひこの盤もじっくり観てほしいと思います。
![]() |
楽しめるディスク |
イギリス、グラインドボーン音楽祭1994年のライブ。イギリスのオペラは、演劇的にも見ていて面白く演出していて、歌だけに終わらないものが多いが、この『フィガロ』も歌がよいだけでなけでなく、演技でもなかなか見せる。スザンナを歌うハグリーはイギリスを代表するソプラノだと思うが(ブーレーズ指揮でメリザンドを歌っているDVDがあるが、これもすばらしい)、いつもどおりの見事な表現力の演技と歌唱を披露している。フィンリーのフィガロもコミカルな2.5枚目風をよく演じている。伯爵のシュミット(リートもうまいドイツのバリトン)も、スケベそうな味を出している。他の演奏での伯爵よりも若々しいところがリアルである。フレミングの伯爵夫人は、この演目での「売り」のようだが、ちょっと貫禄がありすぎる気もするが、ソロは見事だ。ケルビーノのトトロヴィチ(私ははじめてきく歌手だが)は、この役に必要な少年愛をそそる可憐さに不足している気もするが、元気に歌っている。またドン・バジリオをイギリスの名歌手ロバート・ティアーが歌っているのも聴きものである。
指揮はハイティンク。あまりオペラをよく指揮者ではない気がするが、厚みがあり、しかももたつかず、温かみもある。二幕と四幕のフィナーレの盛り上がり方も自然で、胸が熱くなる。
全体として、音楽的にも演劇的にも楽しめるフィガロである。
![]() |
映像は素晴らしい |
1994年5月、新ホールに改装したグラインドボーン音楽祭のオープニング・ライブ版。ハイティング指揮、ロンドンフィル、ジェラルド・フィンリー(フィガロ)、アリソン・ハグリー(スザンナ)、ルネ・フレミング(伯爵夫人)、マリー・トドロヴィチ(ケルビーノ)等。
映像の精度が高く、くっきりとした歌手のアップが見られる。舞台装置も秀逸で、伝統的なインテリアでありながら、スタイリッシュに洗練されている。ただ全体としては、73年収録の同じグラインドボーン音楽祭の『フィガロ』(プリチャード指揮、ピーター・ホール演出)が、稀有の歴史的名演だったので、それと比べるとやや落ちる。アリアの箇所などテンポがかなり遅く、少し間延びした印象を受ける箇所もある。聴衆の拍手を一部カットした編集なのに、時間は189分で、73年版の179分より10分長い。第3幕の伯爵夫人のアリアを、フィガロの親子関係がばれるシーンの前に置く演出。

位 


